客観的に合理的な理由がない人事異動は無効となります。
「客観的に合理的」とは、その理由が以下の①~④要件を満たしている必要があります。
①『真実性』=その人事異動が事実として存在している
②『客観性/妥当性』=その存在について客観的に認識可能な状態にある
③『該当性』=就業規則等に該当する合理的な人事異動である
④『相当性/必要性』=社会通念上相当と認められる事由である
なお、就業規則等に規定があるからといって、会社は無制限に人事権を行使できるわけではありません。
以下(1)~(9)に該当するような人事異動は、人事権の濫用として無効となります。
(1)法令に反するもの
人事異動に関する法的な禁止事項
(2)業務上の必要性のないもの
余人をもって替え難いというほどの高い必要性はなくても、以下のような目的により、会社で定められているで定期異動やローテーション人事等含めて、業務の合理的運営に寄与する点があれば広く認められるとされています。
・労働力の適正配置
・業務の能率推進
・従業員の能力開発
・勤務意欲の高揚
・業務運営の円滑化
・職場環境の改善・調整(セクハラ、パワハラ、ストーカー行為等の対応)
・安全配慮義務(※)
・企業の危急存亡時の特例
<判例>
■人事異動は有効と判断
東亜ペイント事件(昭和61.7.14 最高裁)
国民金融公庫事件(平成16.3.10 東京地裁)
滋賀マツダモータース事件(昭和50.1.17 大阪高裁)
(※1)安全配慮義務として人事異動を検討すべきだったとされた判例
電通事件(平成12.3.24 最高裁)
片山組事件(平成12.6.27 最高裁)
JR東海(退職)事件(平成11.10.4 大阪地裁)
(※2)職種限定採用のため、人事異動の検討は必要なしとされた判例
北海道龍谷学園事件(平成11.7.9 札幌高裁)
(3)労働条件が著しく低下するもの
社会通念上、相当な範囲内で従業員に受忍を求めることが酷ではないといえる程度であれば、認められるとされています。
<事例>
・賃金の減少
・休日、労働時間の変動
・勤務内容の相違 等
<判例>
■人事異動は無効と判断
ノース・ウエスト航空(FA配転)事件(平成20.3.27 東京高裁)
オリエンタルモーター(賃金減額)事件(平成19.4.26 東京高裁)
ケントク(地位保全仮処分)事件(平成21.5.15 大阪地裁)
和歌山パイル織物事件(昭和34.3.14 和歌山地裁 )
(4)従業員のもつ技術・技能レベルより著しく低いもの、又はレベルを低下させるもの
<判例>
■人事異動は無効と判断
バンク・オプ・アメリカ・イリノイ事件(平成7.12.4 東京地裁)
(5)私生活に著しい不利益を生じるもの
甘受すべき範囲を超えている場合は、著しい不利益と判断されます。
OK:家族別居の単身赴任
NG:従業員の家庭事情や本人の健康状態への配慮を欠いたもの
<判例>
■人事異動は有効と判断
帝国臓器製薬事件(平成11.9.17 最高裁)
みなと医療生活協同組合事件(平成20.2.20 名古屋地裁)
ハイクリップス事件(平成20.3.7 大阪地裁)
ブックローン事件(平成2.5.25 神戸地裁)
川崎重工業事件(平成3.8.9 大阪高裁)
共栄火災損害調査会社事件(平成5.5.17 秋田地裁)
チェース・マンハッタン銀行事件(平成3.4.12 大阪地裁)
日本電信電話事件(平成3.12.12 千葉地裁木更津支部)
ケンウッド事件(平成12.1.28 最高裁)
■人事異動は無効と判断
北海道コカ・コーラボトリング事件(平成9.7.23 札幌地裁)
明治図書出版事件(平成14.12.27 東京地裁)
NTT西日本(大阪・名古屋配転)事件(平成19.3.28 大阪地裁)
ナカヨ通信機本訴事件(昭和52.11.24 前橋地裁)
ネスレ日本事件(平成18.4.14 大阪高裁)
(6)人格権を侵害するもの
(7)従業員の安全・健康を害するもの
<判例>
■人事異動は無効と判断
ミロク情報サービス事件(平成12.4.18 京都地裁)
(8)不当な動機・目的によるもの
法令に反する場合のほか、公序良俗に反する場合などは、人事権の濫用として、その人事異動は無効となります。
<事例>
①不当労働行為に該当する場合(ex.組合員の排斥、特定組合への不利益扱い等)
②人格権侵害となる場合
③従業員への報復的な措置の場合(ex.セクハラ被害者、内部告発 等)
④従業員を退職に追い込むような目的でなされた場合
<判例>
■人事異動は無効と判断
バンク・オプ・アメリカ・イリノイ事件(平成7.12.4 東京地裁) ※上記②
名古屋セクハラ(K設計)事件(平成15.1.14 名古屋地裁) ※上記③
パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件(平成21.12.18 最高裁) ※上記③
オリンパス事件(平成23.8.31 東京高裁) ※上記③
フジシール(配転・降格)事件(平成12.8.28 大阪地裁) ※上記④
日本ガイダント仙台営業所事件(平成14.11.14 仙台地裁) ※上記④
(9)人選に妥当性を欠くもの
就業規則等に規定されていればそれに従う必要があり、規定がない場合でも、本人の意向や家庭事情等を確認したうえで、業務上の必要性や人選の理由等を説明するなど、納得を得るような努力を可能な限り行うことが必要とされています。
<判例>
■人事異動は無効と判断
セントラル硝子事件(昭和52.7.20 山口地裁)
新日本通信事件(平成9.3.24 大阪地裁) ※地域限定採用