原則論を言えば、親会社(またはグループ会社)と子会社とは別人格なのだから、その雇用に関して責任を負うことはないはずだ。
しかし、それが問題となるケースもあるので、それらについて、「整理解雇の4要素」と「法人格否認の法理」の2つの観点から考察してみることとする。
まず、会社解散の場合における解雇も整理解雇である(神戸地判S57.11.16、奈良地判H26.7.17等)ので、以下の「整理解雇の4要素」によってその当否が判じられる。
(a)人員削減の必要性
(b)解雇回避努力
(c)人選の妥当性
(d)労働者側との協議
子会社解散の場合、これらのうち「a」「c」「d」は問題にならないとしても、「b」については、親会社の責任が皆無とは言えない。 すなわち、解散する子会社の従業員を親会社やグループ会社に転籍させることを、まずは検討しなければならないのだ。
無論、引き受ける余地の無いこともあろうが、検討すらしないのは、「解雇回避努力を尽くしていない」と見られる可能性がある。
また、その子会社が、以下のような2つの場合は、その法人格を否認されることもある(参考判例:最一小判S44.2.27)。
(1)別法人であることが形骸化している場合
背後の実体たる親会社が子会社を現実的・統一的に支配しうる地位にある場合に該当する。
具体的には、実質上親会社の一部門に過ぎないとして子会社の法人格が否認され、親会社に雇用契約が承継されるとされた裁判例(徳島地S50.7.23等)がある。
(2)違法・不当な目的のために法人格を濫用している場合
労働組合を嫌忌して子会社Aを解散させ従業員を解雇した親会社に対し、裁判所が「不当労働行為」と断じて、親会社が新規に設立した子会社Bでの雇用を命じた事案(大阪高判H19.10.26)がその典型例として挙げられる。
結論として、親会社が子会社を解散するのはグループ全体を見渡した経営上の判断によるとしても、その従業員まで自動的に解雇できるわけではないことは、承知しておかなければならない。
仮に、整理解雇・法人格否認のどちらにおいても問題ないとしても、子会社を解散させる以上、その従業員の雇用を維持するべく、他社への転籍同意を取り付けるなり、労働契約承継法を活用するなり、とにかく、最大限の努力を払うのが親会社(経営者)の責務と言えるだろう。